親知らずの抜歯や歯周病治療なら千種区の当院まで

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親知らずって抜かないといけないの?

親知らずは第三大臼歯または智歯とも呼ばれますが親知らずを抜かないといけないのかどうかで悩む方が多くいます。
そのため親知らずを抜く理由についてお話します。

親知らずを抜く理由

  • 親知らずが痛い!

    親知らずが腫れて痛い!喉が痛い!疲れたりした時にそんな事がたびたび起きてしまう。そんな場合は親知らずを抜く事を考えていいかもしれません。

    痛いのをそのまま我慢すると!?

    なかなか歯医者さんに行けずに我慢していたもののだんだんと痛さが強くなってくる場合は要注意です。親知らずの周りの感染が強くなっている可能性が高いかもしれません。熱が出て入院される患者さんもいるくらいですので親知らずに強い痛みを感じたら早めに対処しましょう。

    【詳しい説明】

    1親知らずがたびたび腫れたり痛んだりする

    親知らずが腫れる理由は親知らずの周りにある歯肉を含む歯周組織が細菌感染を起こして炎症を起こす事にあります。 親知らずの歯冠に歯肉が被っていたり、歯ブラシが届きにくく清掃性が悪くなったりして細菌の塊である口腔内のプラークが留まる事で炎症を起こします。

    口腔内プラークの蓄積によって炎症が起こるメカニズムは歯周病と同じで、言い換えれば親知らずが歯周病または歯肉炎を起こしている状態が親知らずが腫れる状態とも言い換えられます。
    親知らずの歯周組織に炎症が起きる状態を特に智歯周囲炎と呼びます。つまり親知らずが腫れる状態とは歯周病の一つの形とも言えます。若年者では親知らずが埋もれている場合はおおよそ10%ほどの確率で親知らずが腫れる可能性があります。

    何度も親知らずの周りに腫れと炎症が起きる事で歯槽骨が溶かされ歯を支える骨がなくなってしまった親知らず

    参考文献
    1) The fate of impacted lower third molars after the age of 20. Von-Wowern N. et al. Int J Oral Maxillofac Surg. 1989.

    親知らずが腫れたまま放置するとどうなるのか

    親知らずが強い炎症を起こしているにも関わらず放置すると親知らず周囲に膿が溜まり強い痛みを伴った感染の増悪を起こす可能性があります。 膿は感染によって免疫細胞が反応した結果できる免疫細胞や細菌の死骸を含む残骸でその部位に強い炎症性の反応があった事を示します。

    感染と炎症の程度によって親知らず周囲の痛みだけにとどまらず、
    唾を飲んだ時に感じる痛みである嚥下痛を引き起こしたり、痛みと腫れでうまく口が開かなくさらには食事もうまく取れずに体力の低下を引き起こしてさらに感染が増悪するという悪循環に陥る事があります。

    感染がさらに増悪して炎症が進むと親知らず周囲にある組織や筋肉と筋肉の隙間である筋隙を通過して舌の下側の口腔底を含む顎の下全体が腫れる蜂窩織炎やさらには首の下へとすすみ体幹にまで到達すると縦隔炎にまで悪化する事もあります。
    感染と炎症がここまで波及した場合は迅速な切開と排膿や抗生物質の点滴投与、
    さらには入院下での管理が必要となる事もあります。そのため親知らずに強い痛みが出た場合は可能な限り早く医療機関を受診する事が大切となります。

    歯周病とは?

    歯の周りの歯周組織に細菌感染と炎症が起きる状態で歯肉や歯を支える骨(歯槽骨)といった組織に破壊性の症状が現れている状態です。歯周病は口腔内に細菌感染が起きる事で体の免疫が過剰に反応し痛みや腫れといった炎症を過剰に起こしてしまう状態です。
    言い換えれば自分の体が自分の体に過剰にダメージを与えているとも言えます。

    親知らずが腫れて痛い状態も口腔内細菌の親知らずの周囲の歯周組織への感染という状態で歯肉炎、もしくは歯周病の一形態という言い方ができます。

  • 口の中をよく噛んでしまう

    親知らずが口の中に当たって傷がよくできて痛い、口内炎になってしまう。親知らずはだんだんと生える位置が変わる事もあります。前は口の中に当たっていなかったのに今は当たっている。
    口の中に繰り返し傷ができる事はあまりよくないのでその原因をしっかり取り除くという意味で親知らずの抜歯を考えるのもいいかもしれません。

    【詳しい説明】

    2頬(頬粘膜)をよく噛む

    親知らずは歯列の最後方に位置しているため頬を噛みやすい事があります。縦に生えている親知らずが頬に当たったり、上下の親知らずがはえている場合は上下で噛んだ時に頬粘膜を傷つけてしまう事があります。

    上下の親知らずの内、片方だけの親知らずが生えている場合は反対側の顎の歯肉にあたって傷となってしまう事もあります。このような場合は何度も頬粘膜や歯肉に傷ができては治る事でダメージが蓄積して口内炎や白板症となる場合もあります。

    上下の親知らずで頬粘膜を噛んでしまう事があります。

    上もしくは下の親知らずが反対側の歯肉に当たると傷を作る事があります。

    白板症とは

    粘膜疾患で前癌病変と呼ばれる状態です。癌化率は約5〜10%で通常口腔の粘膜は皮膚のように角化しませんが度重なる慢性の刺激によって口腔粘膜の重層扁平上皮がケラチンを生産し角化した状態となったものです。

    見た目では口腔粘膜の滑沢な状態とは違い白くややザラザラとした感触があります。白板症には口内炎に似た潰瘍もしくはびらんを伴う事もあり粘膜との境界は明瞭です。口腔の舌や頬粘膜、口蓋、歯肉などさまざまな場所にできますが癌化した場合には扁平上皮癌と診断されます。

    舌にできた白板症

    噛む事でできる口内炎

    咬傷とも呼ばれる状態で傷口は歯の形に比較的一致した状態で傷が確認できます。咬傷が治る過程では口内炎の状態を経て円形に近い状態で1から2週間ほどの経過をたどって治る事が多いです。咬傷を繰り返す場所には歯が押し付けられてできた頬粘膜への圧痕が見られる事がしばしばあります。

    舌にできた咬傷

  • 矯正治療のために抜く

    矯正治療をする上であらかじめ親知らずを抜く事がありますので主治医の先生とよく相談をしましょう。

    【詳しい説明】

    3矯正治療の前の処置

    矯正治療を行う前に親知らずが治療の邪魔となるために抜く事があります。この場合は痛みなどの症状がなくても治療の便宜上の理由で抜歯をする事になります。

  • 親知らずが虫歯になった、親知らずのせいで他の歯に虫歯ができた

    親知らずが虫歯になってしまった際にあまり歯として機能していない場合には抜歯を選択する事があります。
    さらに親知らずがあって歯を磨きにくい。歯ブラシが届かない。
    そんな時に隣の歯が虫歯になってしまう事があります。これ以上虫歯をすすめないために、または虫歯を治療しても親知らずが邪魔で歯ブラシが届きにくいから治した歯がまた虫歯になってしまった。なんて事にならないために親知らずを抜いてしまうというのも一つの手です。

    【詳しい説明】

    4親知らずが虫歯になった、他の歯の虫歯の原因となった

    親知らずは歯列の最後方に位置しているため治療器具が届き辛く治療が難しい場合もしばしばあり、親知らず自体が歯として機能しておらず特別な使い方をする予定もないといった場合には虫歯に対して修復治療ではなく抜歯を選択する事があります。

    さらに意外と多い原因ですが、親知らずがある事によってその周囲の清掃性が悪くなり親知らずの一つ前の第二大臼歯が虫歯になってしまう事があります。これは親知らずが縦に生えていても横に寝て骨の中に埋もれていても起きる可能性があります。

    特に親知らずが横に寝ており骨に埋もれている場合は虫歯がすすみやすい状況と言えます。
    その理由は通常、歯は骨の中に埋もれいる歯根の部分が歯根膜という組織を介して骨に接合しており、
    この歯根膜で覆われている部分は口の中の汚れが入っていきにくく、細菌の増殖もしにくいのですが、横に寝ている歯の頭となる歯冠の部分には歯根膜が存在せず骨と接合する事はなく、歯冠と骨の間は単なる空間としてしか存在していません。

    そのためその空間には汚れが入りやすくなり細菌の増殖も非常にしやすくなっています。
    この空間に入った汚れは取れにくく親知らずの前の歯の第二大臼歯が虫歯となる原因となる事があります。

    特にこのような状況で虫歯になった第二大臼歯は歯の根の部分近くから虫歯になる事も多く、
    気が付いた時にはすでに歯の神経のすぐそばまで虫歯が進行しており歯の神経の感染によって神経を取る処置をせざるを得ない時もあります。
    骨に埋もれた親知らずが原因で第二大臼歯がむし歯になる可能性はおおよそ1〜5%ほどで多くはないものの臨床現場ではしばしば親知らずの存在によって第二大臼歯がむし歯になってしまう状態が確認できます。

    親知らずが大きく虫歯になっています。親知らずは噛み合わせもなく歯として機能もしておらず神経まで届く虫歯になっているため抜歯も選択肢に入ります。

    親知らずの影響でその手前の第二大臼歯が清掃不良のため歯の神経ぎりぎりまで虫歯になっています。親知らずは横に寝ており歯として機能しないため親知らずの抜歯が選択肢に入ります。

    参考文献
    1) Risks and benefits of removal of impacted third molars. A critical review of the literature. Mercier P. et al. J Oral Maxillofac Surg. 1992.

    埋伏した親知らずの影響で虫歯になった第二大臼歯の治療は治療成績が悪い事もしばしばある

    埋伏した親知らずの影響で虫歯になった第二大臼歯の治療をする場合、虫歯の進行した場所が歯茎の下であったりする事も多く、歯肉から出る浸出液や出血の影響でうまく歯科材料が付かない事もしばしばあり、治療成績が落ちる事もあります。



    歯肉よりも下にできた虫歯を縁下カリエスと呼びます。縁下カリエスでは歯肉溝浸出液などの影響で湿りやすく治療の際の乾燥もむつかしく予後不良になる事がしばしばあります。

  • 何か起きる前にあらかじめ抜いておきたい

    親知らずに特にトラブルは感じていないものの将来的に腫れないか心配だし今は休暇中で余裕がある。そんな場合に先を見越して親知らずを抜いてしまうのも手です。

    【詳しい説明】

    5将来的なトラブルの予防として抜きたい

    特に親知らずに症状がなく、親知らずの影響で前の歯の第二大臼歯が虫歯になってもおらず、矯正治療の前処置のための便宜的な抜歯などの理由がない場合でも将来的に腫れたり、第二大臼歯が虫歯になるのが嫌だという場合に患者さんの希望であらかじめ抜歯をする事があります。

    症状がなくても予防的に親知らずの抜歯を行っておいた方が良いケースは患者さんのおおよそ20〜40%にあたると考えられます。予防的に抜歯が行われる場合は多くの場合下顎の親知らずよりも上顎の親知らずの方が多いですが、これは上顎の親知らずが下顎の親知らずより比較的口の中に生えやすく抜歯も下顎の親知らずの抜歯よりも容易な事が多いからです。

    参考文献
    1) Third molar surgery: an audit of the indications for surgery, post-operative complaints and patient satisfaction. Lopes V. et al. Br J Oral Maxillofac Surg. 1995.
    2) Comparison of clinical treatment decisions with US National Institutes of Health consensus indications for lower third molar removal. Brickley M. et al. Br Dent J. 1993.
    3) Performance of a neural network trained to make third-molar treatmentplanning decisions. Brickley M. et al. Med Decis Making. 1996.
    4) UK National Third Molar project: the initial report. Worrall S. et al. Br J Oral Maxillofac Surg. 1998.

  • 親知らずの周りにできものができている

    レントゲンを撮って骨の中に埋まった親知らずの周りにできものが写る事があります。そんな場合には診断の上でできものと一緒に親知らずを抜いてしまうという選択肢を取る事があります。

    【詳しい説明】

    6歯冠部に嚢胞がある場合

    骨の中に埋まった親知らずの中には時に歯冠部に嚢胞を作るものがあります。
    嚢胞が感染を起こした場合や嚢胞が大きくなり続け骨を溶かしながら膨隆させる場合は親知らずとともに嚢胞を摘出する場合があります。

    歯冠部に嚢胞を作る親知らずはしばしば顎骨の深い場所にあり全身麻酔下での摘出が適応となる事もあります。
    ただし親知らずの歯冠部に嚢胞を作る場合でも感染が伴わず嚢胞がさらに拡大しない場合は必要性を確認したうえで摘出するかどうか決定をする事が大切となります。

    参考文献
    1) Third molar prophylactic extraction: a review and analysis of the literature. Daley TD. Gen Dent. 1996.

こんな場合は親知らずを抜かずにおく事があります

  • 前歯の歯並びが悪くならないか心配な時

    歯並びが悪くなる主な原因は顎が小さくて歯がうまく並びきらない事なので、それを目的として親知らずを抜く事は基本的には推奨されない事が多いです。

    【詳しい説明】

    1前歯の歯並びが悪くなる事への対応

    前歯の歯並びが悪くなる要因と親知らずがあるかないかは関係がないと考えられており、それを理由に親知らずを抜く事はあまりふさわしくないと報告されています。

    参考文献
    1) The mandibular third molar and late crowding of the mandibular incisors –a review. Vasir N. et al. Br J Orthod. 1991.
    2) Prophylactic removal of impacted third molars: an assessment of published reviews. Song F. et al. Br Dent J. 1997.
    3) The effect of extraction of third molars on late lower incisor crowding: a randomized controlled trial. Harradine N. et al. Br J Orthod. 1998.

  • 悪くなってしまった他の奥歯の変わりに植え替えて使う

    重度の虫歯などで他の奥歯を抜かないといけなくなってしまった場合に親知らずをその位置に植え替えて使う事があります。しかし植え替えた親知らずは弱くなっているため長期ではなかなか持たない事もしばしばです。
    さらに、植え替える親知らずは無傷に近い必要があるため適応も限られてきます。

    【詳しい説明】

    2再植

    虫歯や歯が割れる歯牙破折など様々な理由で抜歯しないといけなくなった大臼歯などに親知らずを再植する場合があります。
    再植をする際には抜歯される親知らずの中の歯の神経である歯髄は引きちぎれるように剥がされるため、そのまま再植すると歯髄は壊死を起こす事が多く、あらかじめ親知らずの神経を抜いて歯内療法をしてから再植をします。

    親知らずの再植をするためには親知らずがある程度無傷である必要があるため、齲蝕などによって他の大臼歯が抜歯しないといけない状況になっている場合は、親知らずも大きな齲蝕になっている事がしばしばあるため親知らずの再植は適応が限られる事が多いです。

    さらに再植部位となる歯を抜いた後の抜歯窩の形と親知らずの歯根の形は違うため抜歯窩を削って形を整える必要があります。再植した後の親知らずのその部位での寿命はおおよそ5〜8年ほどでこれは再植をした歯根が破骨細胞(もしくは破歯細胞)によって吸収されるためです。

    通常の歯は歯根の周りを覆っている歯根膜によって破骨細胞からの吸収に守られていますが、再植した際には歯根膜の一部が失われて直接歯根と骨が接して治癒後に骨性癒着を起こします。そのため破骨細胞によって骨同様に歯根も吸収され、吸収された歯根は骨に置き換わります。これを置換性吸収と呼びます。

    骨性癒着(アンキローシス)と破骨細胞からの影響

    骨性癒着とは歯根と骨が癒着した状態です。通常は歯根と骨の間には歯根膜が存在し歯根の表面に存在するセメント質に付着した歯根膜がハンモックのように働いて骨にぶら下がるように歯を支えています。
    骨性癒着とはこのハンモック部分の歯根膜を介せずに癒着している状態です。この骨性癒着の状態になると常に起きている自分の骨を新陳代謝する骨改造(リモデリング)の際に破骨細胞によって歯根も吸収がはじまります。

  • ブリッジの支えに使う

    親知らずの前の歯が無くなってしまった場合に親知らずをブリッジの支えにして使う事があります。この場合も親知らずはある程度無傷に近い必要があるため適応を見極めたうえで支えに使うか決める必要があります。

    【詳しい説明】

    3ブリッジへの利用

    第二大臼歯がむし歯などの影響によって抜歯となってしまった場合に親知らずが口の中に生えており、
    むし歯などのダメージが少ない場合にブリッジの支台歯として利用できる事があります。
    ただ、親知らずは口の中に生えていても比較的かたむいて生えている事も多く、ブリッジの支台歯とするには他の支台歯となる歯との並行性を合わせる必要があります。

    そのため、親知らずが傾いている際にブリッジの支台歯とするためには他の歯との方向を合わせるために神経を抜くなどの処置をして削り方を大きく変える事で他の歯との並行性を確保する必要が出る場合があります。

  • 歯の噛み合わせに影響する

    親知らずが上下で奇麗に噛んでいる場合はそのままにして抜かない事があります。親知らずも噛み合わせを安定させる上で役立っている事もあるので診断をしっかりした上で抜歯するかどうか決めると良いでしょう。

    【詳しい説明】

    4CR ICP スライドに影響している

    下顎は開いたり閉じたりをしますが、その分位置が不安定とも言えます。下顎の位置の規定は様々ありますがその中に中心位(CR:Centric relation)と咬頭嵌合位(ICP:lntercuspal position)があります。

    中心位は下顎の関節頭が関節窩で安定している状態であり、咬頭嵌合位は上顎の歯と下顎の歯を噛み合わせた状態です。中心位は咬頭嵌合位よりもおおよそ後方に1mm下がっています。口を軽く開けて力を抜いている状態が中心位に近くそこから歯を噛み合わせてくると上下の歯が接触して咬頭嵌合位へと導かれます。

    この際のズレ(スライド)をCR ICPスライドと言いますが、このスライドが起きる際に歯に負担がかかる事があり、その負担によりレントゲン上で骨の吸収が確認される事があります。

    この負担を親知らずが受け持っている事があり、親知らずを抜く理由が特にない場合にCR ICPスライドの負担を受け持っている親知らずを抜いてしまうと他の歯にその際の負担がかかってしまう事があるため上下の親知らずが噛み合っており、親知らずが腫れるなどの抜く理由もなく、さらにCR ICPスライドの際の接触が親知らずで確認される場合は親知らずを抜かない方がいい事もあります。

色々な親知らずの生え方

親知らずの生え方によっては抜歯の際の難易度と抜歯後の治癒に様々な差が出る事があります。

  • 親知らずが普通に生えている

    口の中で奇麗に生えている親知らずです。抜くのも比較的楽で抜歯後の腫れも少ない事が多いです。

  • 横になって歯の頭の一部が見えている

    横に生えている親知らずでうまく口の中に出てこられなかった親知らずです。一部だけが口の中に見えているものの他の奥歯に当たって基本的にはそれ以上出てくる事は難しい事が多いです。比較的抜歯の対象となる事も多いですが、埋まり具合によって抜歯後の腫れは様々です。

  • 骨の中に埋まって見えない

    親知らずが骨の中に完全に埋まっている状態です。縦になって埋まっている場合はその後口の中に出てくる場合もありますが横になっている場合は基本的には口の中には出てきません。抜歯の際には骨を削らないといけないのでその後の腫れが出やすいと言えます。

    【詳しい説明】

    親知らずの生え方の種類とその影響

    親知らずでは親知らずの生え方や骨への埋まり方で抜歯の難易度が左右され、抜歯後の腫れや治癒などにも大きな影響を及ぼします。特に下の親知らずでは親知らずがどれほど下顎の中に埋もれているかで抜歯の際に下顎の中にある下歯槽神経への影響が変わり、深く埋もれていれば埋もれているほどそのリスクは上がります。

    下顎の親知らずが縦になって下顎の骨に埋もれているか横になって埋もれているかでも抜歯の際の下歯槽神経に影響が出る確率は変わり、下顎の親知らずが縦になって埋伏している状態ではおおよそ1%、斜めに埋伏している場合はおおよそ1.4%、水平に埋伏している場合は下歯槽神経に影響が出る確率はおおよそ1.7%と言われます。
    埋伏状態は歯の冠が口の中に一部出ている半埋伏からすべて骨の中に埋まっている骨性完全埋伏と様々です。

    縦に埋まっている親知らず。半埋伏、完全埋伏で合わせて抜歯の際に下歯槽神経に影響の出る確率は平均でおおよそ1%と言われます。

    斜めに埋まっている親知らず。半埋伏、完全埋伏で合わせて抜歯の際に下歯槽神経に影響の出る確率は平均でおおよそ1.4%と言われます。

    横に埋まっている親知らず。半埋伏、完全埋伏で合わせて抜歯の際に下歯槽神経に影響の出る確率は平均でおおよそ1.7%と言われます。

    1普通にはえている親知らず

    他の歯と同じように生えている状態です。上と下両方が生えていれば第一大臼歯や第二大臼歯と同じように噛める場合もあります。通常通りに生えている下顎の親知らずでは抜歯の際に下歯槽神経に影響が出る確率はおおよそ平均0.3%とされます。

    他の歯と同様に生えている親知らずです。抜歯の際に下歯槽神経に影響の出る確率は平均でおおよそ0.3%と言われます。

    2半埋伏の親知らず

    歯冠の一部が骨から出ており親知らずが縦に生えずに横に生えてきてその前の第二大臼歯にぶつかってしまっている状態です。親知らずと第二大臼歯の間の清掃性が悪くなり虫歯が発生しやすくなったり、 口臭の原因になる場合もあります。

    口腔内に歯冠が出ている場合と埋もれている場合がありますが、 どちらの場合でも清掃不良により親知らずが腫れる智歯周囲炎を引き起こす可能性があります。
    半埋伏の状態の親知らずでは抜歯の際に下歯槽神経に影響が出る確率は平均でおおよそ0.7%と言われます。

    歯冠の一部が出る半埋伏の状態です。抜歯の際に下歯槽神経に影響の出る確率は平均でおおよそ0.7%と言われます。

    3骨性完全埋伏の親知らず

    口腔内に親知らずが出ておらず骨の中に完全に親知らずが埋もれている完全骨性埋伏と呼ばれる状態です。
    親知らずは縦になっている場合と横になっている場合がありますが、いずれにしても抜歯するために歯肉の切開と骨の削除を必要とします。

    完全骨性埋伏の状態では親知らずが深い位置にある事が多いので抜歯後の腫れが起きる可能性も高まります。親知らずの歯根が下歯槽管と近い事も多く抜歯後の偶発症の起きる確率が高まる傾向にあります。

    親知らず全体が下顎の骨の中に埋まっているものでは抜歯の際に下歯槽神経に影響が出る確率は平均でおおよそ3%と言われます。

    完全埋伏歯は縦や横など様々な埋まり方をしています。抜歯の際に下歯槽神経に影響の出る確率は平均でおおよそ3%と言われます。

    参考文献
    1) Incidence of nerve damage following third molar removal: a West of Scotland Oral Surgery Research Group study. Carmichael FA. Br J Oral Maxillofac Surg. 1992.
    2) Incidence of neurosensory deficits and recovery after lower third molar surgery: a prospective clinical study of 4338 cases. Cheung LK. Int J Oral Maxillofac Surg. 2010.
    3) Extraction of impacted mandibular third molars: postoperative complications and their risk factors. Blondeau F. et al. J Can Dent Assoc. 2007.
    4) Incidence of nerve damage following third molar removal: a West of Scotland Oral Surgery Research Group study. Carmichael FA. Br J Oral Maxillofac Surg. 1992.
    5) Incidence of neurosensory deficits and recovery after lower third molar surgery: a prospective clinical study of 4338 cases. Cheung LK. Int J Oral Maxillofac Surg. 2010.

上顎に生える親知らずを抜く際に影響する事がある項目(偶発症)

  • 上顎洞への影響

    上の親知らずは上顎洞という頭蓋骨の中にある骨で囲まれた空洞の近くにある場合があります。
    この時は親知らずを抜いた後に上顎洞の空洞と抜歯した穴がつながってしまったりといった偶発症が起きる事があります。抜歯の際にはつながっていなくても強く鼻をかむなど圧力をかける事でつながってしまう事もあります。

    【詳しい説明】

    1上顎洞への影響

    上顎洞とは頭蓋にある副鼻腔の一つで骨に囲まれた空洞になっている部分です。上顎洞は鼻腔へと繋がっており左右それぞれ2ヶ所にあります。蓄膿症で膿が溜まるのはこの上顎洞に炎症が起きて上顎洞炎になっている状態です。 上の親知らずの歯根は時にこの上顎洞に近い事があり、歯根の一部が上顎洞に交通している事があります。

    親知らずの歯根と上顎洞が交通している際には、抜歯後に歯を抜いた後の抜歯窩と上顎洞がそのまま繋がって交通する事があります。その時は抜歯窩からの出血が上顎洞に入り込み鼻血が出る事がありますが多くは抜歯窩の治癒の過程でその交通は塞がってしまいます。

    親知らずの歯根が上顎洞に近く、さらに抜歯の際に一部の歯根が残った際には残った歯根を上顎洞に押し込んでしまわないようにあえて残った歯根を取らずにする処置が選択される場合もあります。

    上の親知らずの歯根の先端が上顎洞付近に位置しています。抜歯をした際に上顎洞と抜歯窩が繋がる事があります。また歯根が折れて残った際には折れた歯根を上顎洞内に押し込んでしまわないようにあえて折れた歯根を抜かない事があります。

  • 抜歯後の感染

    親知らずを抜いた後の穴に細菌感染が起きてしまう事があります。もともと感染が強かったり汚れがたまりやすいなどの理由で感染が起きて抜歯後の歯茎に腫れや痛みが出る事があります。

    【詳しい説明】

    2抜歯後感染

    下の親知らずと同様に上の親知らずの抜歯後にも細菌感染が起こり、時には抜歯窩の治癒が遅れる事があります。
    抜歯後感染が見られる場合は抜歯窩周囲の歯肉に炎症と腫脹が起きて歯肉を触った時に強めの痛みを感じます。

    感染の程度によって積極的な消毒と洗浄、抗生物質の追加投与が行われる場合があります。
    親知らずの歯根が上顎洞に近く、さらに強い抜歯後感染を起こした時には感染と炎症が上顎洞に波及して上顎洞炎に移行する事もまれにあります。

下顎に生える親知らずを抜く際に影響する事がある項目(偶発症)

  • 神経へのダメージ

    下の顎の骨の中には下歯槽神経という歯や唇へと繋がる神経があります。親知らずを抜く際に歯に繋がった下歯槽神経が引っ張られて神経にダメージを受けると下唇が痺れたり感覚がなくなったりといった症状が出る事があります。

    親知らずの位置による下歯槽神経への影響の違い

    I. 下歯槽神経との距離が遠い場合
    親知らずが下歯槽神経と距離的に遠い場合は下歯槽神経への影響が出る確率が比較的低いです。

    II. 下歯槽神経との距離が近いが神経との間に骨の壁がある
    親知らずと下歯槽神経の距離が近いものの神経との間に骨の壁がある場合は親知らずを抜く際に下歯槽神経を引っ張る可能性が下がります。下歯槽神経との距離が遠い場合よりも下歯槽神経への影響が出る可能性は高いですが下歯槽神経にダイレクトに影響を及ぼす可能性が骨の壁のおかげでさがっています。

    III. 下歯槽神経と親知らずが直接繋がっている場合
    親知らずが下歯槽神経と直接繋がっている場合は抜歯の際に神経を引っ張ってしまったり親知らずの根っこ自体が神経を抱え込んでる可能性が高まります。親知らずが下歯槽神経と繋がっている可能性が高いと判断された場合は抜歯方法をよく検討する必要がある事もあります。

    【詳しい説明】

    1下歯槽神経への影響

    下顎の骨の中には下歯槽管という神経と血管が通る空間が存在し、中には下歯槽神経と下歯槽動静脈が通っています。下歯槽神経は下顎の骨の中を通りそれぞれの歯への神経へと繋がり、さらには下唇へと分布していきます。

    この下歯槽神経は運動神経ではなく知覚神経のため、下唇周囲の感覚を司っています。下顎の親知らずは時に歯の根である歯根の先端が下歯槽管の中に飛び出ていたり接していたりする事があります。

    そのため、下歯槽神経のすぐ近くに親知らずの歯根がある場合は親知らずを抜く時に歯根が下歯槽神経を引っ張ったり刺激を加えたりする事があります。影響を受けた下歯槽神経の影響の程度は様々で唇の感覚が鈍くなったり、感じられなくなったり痺れた感じが残る事があります。

    親知らずを抜いた際に下歯槽神経がダメージを受ける確率は親知らずの位置や状態に大きく影響を受けますが0.3%から最大でおおよそ20%と幅があります。下歯槽神経への影響を受ける可能性が低いと術前診断された場合は確率が0.3%、下歯槽神経への影響を受ける可能性が非常に高いと術前診断された場合は20%の確率と考えると想像しやすいと思います。

    下歯槽神経への影響の可能性は親知らずの埋まり方や生えている方向、深さ、親知らずの歯根と下歯槽管への交通の有無が大きく影響します。神経損傷が出た場合は複合ビタミンB製剤、ATP製剤などの服用が行われる事がありますが、永続的に神経のダメージが残る確率はおおよそ1〜4%とされています。

    下歯槽神経への影響で下唇の知覚異常は下歯槽神経の直接的な損傷によって起きる場合と、抜歯後に浮腫などが原因で神経が圧迫されて起きる場合がありますが、神経が圧迫されて症状が出ている場合は時間の経過と共に比較的症状が軽快する事があります。

    埋まっている位置が深く歯根と下歯槽管が交通している可能性が高い親知らず。抜歯による下歯槽神経へのダメージのリスクが高いと判断されます。

    参考文献
    1) Risks and benefits of removal of impacted third molars. A critical review of the literature. Mercier P, et al. J Oral Maxillofac Surg. 1992.
    2) Third molar prophylactic extraction: a review and analysis of the literature. Daley T. D. Gen Dent. 1996.
    3) Incidence of nerve damage following third molar removal: a west of Scotland Oral Surgery Research Group Study. Carmichael F. A. et al. Br J Oral Maxillofac Surg. 1992.
    4) Decision analysis for lower-third-molar surgery. Brickley M. et al. Med Decis Making. 1995.
    5) Complications of third molar surgery and their management. Marciani RD. Atlas Oral Maxillofac Surg Clin North Am. 2012.
    6) Which risk factors are associated with neurosensory deficits of inferior alveolar nerve after mandibular third molar extraction? Kim JW. et al. J Oral Maxillofac Surg. 2012.
    7) Evaluation of trigeminal nerve injuries in relation to third molar surgery in a prospective patient cohort. Recommendations for prevention. Renton T. et al. Int J Oral Maxillofac Surg. 2012.
    8) Correlation of radiographic signs, inferior dental nerve exposure, and deficit in third molar surgery. Leung YY. et al. J Oral Maxillofac Surg. 2011.
    9) The relative risk of neurosensory deficit following removal of mandibular third molar teeth: the influence of radiography and surgical technique. Smith WP. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2013.
    10) Elimination of permanent injuries to the inferior alveolar nerve following surgical intervention of the “high risk” third molar. Umar G. et al. Br J Oral Maxillofac Surg. 2013.
    11) A randomised controlled clinical trial to compare the incidence of injury to the inferior alveolar nerve as a result of coronectomy and removal of mandibular third molars. Renton T. Br J Oral Maxillofac Surg. 2005.

    親知らずの位置による下歯槽神経への影響の違い

    I.歯根が下歯槽管と離れている状態
    親知らずの歯根の先端と下歯槽管の距離が十分離れていている状態です。レントゲン写真で歯根の先端が下歯槽管の少し近くにあっても歯根膜と下歯槽管の壁がしっかりとレントゲンに写っていれば下歯槽管とは離れている状態と言えます。

    親知らずの歯根が下歯槽管から離れています。親知らずの歯根膜も下歯槽管の壁もしっかり写っています。

    II.歯根が下歯槽管とレントゲン上重なっているが下歯槽管とは交通していない状態
    親知らずの歯根の先端が下歯槽管の位置に接している、もしくは重なっているものの下歯槽管とは交通していない状態です。レントゲン写真は2次元的に写るため、下歯槽管に接していたり重なっていても見た目上そう見えるだけで3次元的には歯根と下歯槽管が接していない事もよくあります。

    歯根膜がしっかり写っていたり、歯根の周りの硬線とよばれる骨の壁のようなものが見える場合、下歯槽管の管壁の骨がしっかり見えていたり下歯槽管の走行が乱れていない場合は見た目上で重なっているように見えても実際には歯根と下歯槽管が交通していない事がしばしばあります。

    親知らずの歯根が下歯槽管と重なって見えるが歯根膜の連続性も下歯槽管の骨壁も確認できます。下歯槽管の走行も乱れておらず親知らずの歯根は下歯槽管と交通していない可能性があります。

    III.歯根が下歯槽管と交通している状態
    親知らずの歯根が下歯槽管と完全に交通している状態です。交通しているにとどまらず歯根が下歯槽管の中に入り込んで神経を抱え込んでいる場合もあります。このような状態では歯根の歯根膜が途中で途切れていたり、下歯槽管の管壁の骨が途切れていたり走行が乱れているなど様々なレントゲン像が確認されます。

    時には横になった親知らずの歯根だけでなく歯冠も下歯槽管に接している事があります。レントゲン上で下歯槽管の管壁の骨が途切れている事が確認された場合は管壁の途切れがない場合に比べて抜歯の際に下歯槽神経に影響が出る可能性が3倍以上に上がるとされています。
    さらに抜歯後に実際に下歯槽管への交通が目視で確認された場合は確認されなかった場合に比べて下歯槽神経へ影響が出る可能性が15倍に上がるとされます。

    このような時には下歯槽管からのびて親知らずの歯根へと分布する神経が抜歯の際に引っ張られて抜歯後に下歯槽神経に影響が出る事があります。

    下歯槽管の走行が乱れ歯根膜も下歯槽管の骨壁も不明瞭になっており親知らずの歯根が下歯槽管と交通している可能性があります。

    参考文献
    1) The relative risk of neurosensory deficit following removal of mandibular third molar teeth: the influence of radiography and surgical technique. Smith WP. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2013.
    2) Multivariate relationships among risk factors and hypoesthesia of the lower lip after extraction of the mandibular third molar. Hasegawa T. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2011.
    3) Anatomical differences in lower third molars visualized by 2D and 3D X-ray imaging: clinical outcomes after extraction. Jun SH. et al. Int J Oral Maxillofac Surg. 2013.
    4) Anatomic relationship between impacted third mandibular molar and the mandibular canal as the risk factor of inferior alveolar nerve injury. Xu GZ. Br J Oral Maxillofac Surg. 2013.
    5) Cortical integrity of the inferior alveolar canal as a predictor of paresthesia after third-molar extraction. Park W et al. J Am Dent Assoc. 2010.
    6) Risk factors of neurosensory deficits in lower third molar surgery: an literature review of prospective studies. Leung YY. et al. Int J Oral Maxillofac Surg. 2011.

  • ドライソケット

    ドライソケットとは歯を抜いた後の骨の表面にうまくかさぶたができずにいる状態です。骨が固くて骨髄が少なくて抜歯時の出血が少なかったり、口をすすぎすぎてかさぶたが取れてしまった時などに起きます。
    ドライソケットによってむき出しになった骨の表面はヒリヒリとした傷みを感じる事が多々あります。

    【詳しい説明】

    2ドライソケット

    ドライソケットとは抜歯した後の抜歯窩に血餅やかさぶたができずに骨がむき出しになっている状態です。
    度重なる慢性の炎症により骨が硬化したり口のすすぎ過ぎなどで抜歯窩の血餅が剥がれ落ちたりして起きます。

    年齢や性別、親知らずの周りの炎症である智歯周囲炎の経過による骨硬化などである程度のドライソケットの予知性があります。年齢は上がるほど骨が硬化する傾向にあり、女性よりも男性で比較的多く、レントゲンで親知らず周囲の骨を確認した時に骨硬化像が確認されると予知性が上がります。

    抜歯後にドライソケットが発生する確率はおおよそ0%から35%と幅があり、ドライソケットの予知性が高いものでは35%程の発生確率があります。さらに喫煙者ではドライソケットになる可能性が高まる事が確認されています。

    ドライソケットの予知性が高い場合に粘膜で抜歯窩を覆うように縫合した場合は血餅の保持を促進してドライソケットの起きる可能性を下げる事も可能な場合がありますが、親知らずの歯冠部が大きく口腔内に出ている場合は粘膜弁を形成できずに閉鎖創として閉じる事ができずに口腔内に抜歯窩が露出した開放創となる場合もあります。

    参考文献
    1) Risks and benefits of removal of impacted third molars. A critical review of the literature. Mercier P. et al. J Oral Maxillofac Surg. 1992.
    2) Germectomy or delayed removal of mandibular impacted third molars: the relationship between age and incidence of complications. Chiapasco M. et al. J Oral Maxillofac Surg. 1995.
    3) Alveolar osteitis after surgical removal of impacted third molars. Identification of the patient at risk. Larsen P. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1992.

  • 抜歯後の感染

    親知らずを抜いた後の穴に感染が起きてしまう事があります。もともと感染が強かったり汚れがたまりやすいなどの理由で感染が起きて抜歯後の歯茎に腫れや痛みが出る事があります。感染が強くなると唾を飲み込んだ時に痛みを感じたり顎が開け辛くなったりするなどの症状が出る事があります。

    【詳しい説明】

    3抜歯後感染

    抜歯をした傷口に感染が起きる事があります。腫れや痛みを伴いますがドライソケットとは別の病態になります。抜歯後感染は細菌の感染によって成立し親知らずを抜いた後の粘膜組織に感染由来の炎症が起きます。

    抜歯後の治癒過程では感染がない場合は腫れと痛みのピークは抜歯後からおおよそ2日から3日目となりますが、抜歯後の粘膜に感染が成立した場合はその後に腫れや痛みがさらに増強します。


    抜歯部位の粘膜を触ると強い痛みを伴い、持続する出血が見られる事もあります。抜歯後感染の強さによって抗生物質を追加で処方する必要がある事もあり、粘膜に強い細菌感染が起きている場合は積極的に洗浄と消毒をする必要がある事もあります。

    この点はドライソケットとは異なり処置の際も抜歯後感染の場合は抜歯窩の積極的な洗浄と消毒を、ドライソケットの場合は抜歯窩の洗浄は積極的に行わず消毒も作用の強いものを使わないという違いがあります。
    それぞれで抜歯後感染とドライソケットでは逆の処置をする事になるので診断を確実にする必要がありますが、ドライソケットと抜歯後感染が同時に併発する場合もあります。

    抜歯後に強い炎症が伴う場合は唾を飲み込んだ時の痛みである嚥下痛や口が開き辛くなる開口障害が出る事もありますが、炎症の消退に合わせて嚥下痛や開口障害も落ち着いてきます。

    Q. 抜歯の際に歯の根は残さずすべて抜かないといけないの?
    A. 抜歯の際に歯の根っこが折れる場合があります。基本的には歯の根っこも含めてすべて抜きますが歯の根が上顎洞に近かったり下歯槽神経に近かったりする場合は残った歯の根を無理に抜こうとする事で逆に上顎洞や下歯槽神経に影響を与えてしまう事があります。
    残った歯を抜くことに対してリスクが高い場合はあえて抜かずに骨の中に残す事があります。
    他にも下歯槽神経への影響を避けるために最初から親知らずの歯の根っこを残す事を目的として行うコロネクトミーという手術方法もあります。

    【詳しい説明】

    抜歯の際に歯根はすべて抜かないといけないのか?

    抜歯の際に歯の根が骨の中に残る場合と意図的に歯の根を残す場合があります。
    通常は抜歯の際には歯根を全て取りますが、下歯槽管に近かったり上顎洞の近くに歯根が残る場合はリスクを考えて無理に歯根を取らない場合があります。

    下歯槽管や上顎洞の近くに残った歯根を無理に取ろうとして力を加えたりする事で残った歯根を下歯槽管や上顎洞に迷い込ませてしまったり、下歯槽神経を傷付けてしまう事があるためメリットとデメリットを考えて判断を行います。通常では歯根の先端付近に病巣がないものに関しては骨の中に残しても感染するリスクは低い事が多く下歯槽管や上顎洞に近い場合は無理に取らない方がメリットが大きい場合もあります。

    一方で歯根の先端に病巣が確認される場合は原則、歯根も病巣と共に取り除く必要がありますが下歯槽管や上顎洞に非常に近かったり、歯根の形態によってはリスクを評価した上で歯根を残す判断がされる場合もあります。

    取り残した歯根は骨性癒着を経て吸収する

    骨は骨改造の過程で破骨細胞によって骨が溶かされ、骨芽細胞によって骨が作られる事で常に代謝をしています。
    この破骨細胞はクラゲのような形をしており、そのクラゲの触手のような場所(波状縁)から酸や分解酵素を出す事で骨をくぼみ状に溶かしています(ハウシップ窩)。

    この破骨細胞は歯を溶かす事もできますが通常は歯根の表面に位置する歯根膜に守られ骨のように溶かされる事がありません。しかし、歯根の近くで強い炎症が起きたり骨と歯が歯根膜を介せずに接する事で破骨細胞によって歯が溶かされます。歯が破骨細胞によって溶かされる場合は特に破歯細胞と呼ばれますが、細胞は同一のものと判断されます。

    取り残した歯根の折れた断面には歯根膜は存在せず治癒過程で造成された骨が歯根の断面と接触する事になり骨性癒着が起きます。
    その結果、骨の改造の過程で骨が吸収されると共に歯根も同時に吸収されていく事となります。
    これを置換性吸収と呼びます。

    歯根の中に存在する歯の神経である歯髄は治癒の過程で回りの結合組織に置き換わっていきます。最終的には時間をかけて歯根があった場所から歯根が消滅し骨に置き換わる事となります。この歯根の吸収は歯の再植時に骨性癒着が起きた時にも同様に起こります。

    歯根(左側)の表面が破骨細胞(赤色)によってくぼみを形成して吸収されています(黒矢印)。骨(右側)の表面にも同様に破骨細胞(赤色)によって骨の改造が起きています。

    破骨細胞(破歯細胞)によって歯根が吸収しています。



    破骨細胞と破歯細胞は組織学的には同じものであり、機能も見た目も同じ。

    破骨細胞も破歯細胞も組織学的には同様であり、共に波状縁から酸や分解酵素を出してミネラルやコラーゲンを溶かしますが骨の場合は破骨細胞によって溶かされた後に骨芽細胞によって新しい骨が造成されますが、 歯根が溶かされた場合は溶かされた場所には歯ではなく骨が造成されていくため破骨細胞(破歯細胞)によって歯が溶かされる場合は一方的に吸収される事となります。

    破骨細胞(破歯細胞)は細胞核を複数持ちクラゲのような触手(波状縁)から酸や分解酵素を出して骨や歯をくぼみ状に吸収します。

    Q. コロネクトミーとは?
    A. 親知らずの歯の頭と根っこを分割して頭の部分のみを取り除いて残りの歯の根っこは骨の中に残して骨に埋もれさせる手術方法です。

    【詳しい説明】

    下歯槽神経への影響を避けるために行うコロネクトミー

    親知らずの歯根が下歯槽管に交通していたり歯根が下歯槽神経を抱え込んでいる可能性があり、
    抜歯によって下歯槽神経への影響が強く予想される際にあえて親知らずの歯冠だけを取り除き歯根をあえて骨の中に残すコロネクトミーという手技があります。

    コロネクトミーを行う際は親知らずの埋伏歯の抜歯の際に行う歯冠と歯根の分割(アンプテーション)を行い歯冠を取り除くところまでは手技は同じで、通常その後に歯根を抜歯するところをあえて残すという点が違います。あえて歯根を触らずに残す事で下歯槽神経への影響を少なくする事が目的となります。

    コロネクトミー後の経過

    1下歯槽管から歯根が離れた時に再度歯根の抜歯をする

    コロネクトミー後に残された歯根は時間をかけて下歯槽管の位置から少しずつ離れていくように動いていく事があります。時間の経過とともに下歯槽管から離れた歯根を改めて手術によって取り除く事で安全に2段階に分けて親知らずを抜歯する事になります。この場合は2回法抜歯と呼ばれる方法でコロネクトミーとは区別されます。

    2骨の中に歯根を埋もれさせて骨性癒着を経て破骨細胞に吸収させる

    残りの歯根を抜歯しなかった場合は残りの歯根を骨に埋もれさせる事となります。
    このように残りの歯根を抜歯せずに残した状態がコロネクトミーと呼ばれる手法で、歯冠と歯根の分割によってできた断面は歯根膜で覆われていないため歯根の一部は骨と骨性癒着を起こす事となります。

    骨性癒着を起こした歯根は骨の改造の過程で破骨細胞(破歯細胞)によって少しずつ数年から数十年をかけて吸収されて骨改造の過程で歯根が骨に置き換わる事になりますが、これを置換性吸収と呼びます。

    骨改造の速度は年齢によって変わり、成人ではおおよそ年2%ほどと言われています。この方法を取る場合は改めて2度目の手術をする必要はありません。

    参考文献
    1) Coronectomy: a technique to protect the inferior alveolar nerve. Pogrel MA. J Oral Maxillofac Surg. 2004.

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